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埼玉県私立高校の「確約制度」を徹底解説
埼玉県の高校受験には、他県にはあまり見られない独特の仕組み「確約制度(通称:核薬)」が存在します。本記事では、この制度の概要から実際の運用、対象校や時期、誕生の背景、そして東京都・神奈川県・千葉県との比較までを整理し、これから受験を迎えるご家庭に分かりやすく解説します。
1. 確約制度とは?
「確約」とは、埼玉県内の多くの私立高校で行われている事前合格保証制度のようなものです。中学3年生が受ける模試(主に北辰テスト)の成績や通知表を持参し、各校の個別相談会で基準を満たせば「受験すれば必ず合格です」といった“内定”を得られます。実際の入試では白紙答案や欠席などをしない限り、不合格になることはありません。
💡 注意:これは公的に明文化された制度名ではありません。学校側は「確約」という語を避け、「安心できる判定です」などと婉曲に伝えるのが一般的です。いわば暗黙の了解として広く運用されています。
2. 確約はなぜ生まれたのか?
公立高校人気の高さ
埼玉県は伝統的に「公立志向」が強い地域です。浦和・浦和一女・大宮といった県立トップ校を第一志望にする受験生が多く、私立は「併願校=すべり止め」として扱われがちでした。
私立の生徒確保
公立に合格したら辞退されてしまう可能性が高い中で、私立が経営を安定させるためには、事前に「合格を保証するから受けてほしい」と迎合する必要がありました。確約は、生徒確保のための競争戦略として誕生したのです。
北辰テストの存在
埼玉県内ではほぼ全員が受験する「北辰テスト」が存在しました。これは県内統一模試として信頼度が高く、私立が客観的基準として用いるには最適でした。こうして「模試偏差値を根拠に合格保証する」という仕組みが可能になったのです。
3. いつから始まったのか?
正確な制度開始年は公式には残っていませんが、教育関係者や塾の記録によると、1990年代後半〜2000年代前半に広く定着したとされます。
背景には:
- バブル崩壊後の少子化と私立の経営難
- 大学進学実績を伸ばすため、優秀層を早めに囲い込みたい進学校の思惑
- 北辰テストの普及
といった条件が重なりました。こうして現在のように「秋の個別相談で確約を得る」文化が出来上がったのです。
4. 確約を得るまでの流れ
- 北辰テストを受験:7月以降の北辰2回分で、各校が定める偏差値基準を満たす必要があります。多くは「2回とも基準以上」が条件です。
- 学校説明会で基準を確認:夏以降の説明会で内申・偏差値の目安を公開。英検や皆勤などで加点される場合もあります。
- 個別相談会に参加:9月以降に実施され、ここで北辰の成績表や通知表を提示。基準を満たせば「合格確実」の言葉を得られます。
- 正式に出願・受験:確約をもらっても出願と試験は必要ですが、合格は事実上保証されています。
特記事項
- 淑徳与野高校:多くが7月以降を基準とする中、6月の北辰テストから提出可能という特例があります。ただし2回分の提出は必須です。
- 単願と併願:確約には単願確約と併願確約があり、単願の場合は基準がやや低く設定される(または加点優遇がある)ことが多いです。これは学校側が「必ず入学してくれる」単願受験者をより歓迎するためです。
✅ コツ:学校ごとに基準月や加点条件が異なります。必ず最新の学校案内や説明会資料、塾の情報で確認しましょう。
なお、多くの学校は7月以降を基準としますが、例外的に6月から認めるケースもあり、学校ごとに運用が異なるため、必ず直接問い合わせて最新情報を確認することが重要です。
5. 確約制度を導入している主な高校
埼玉県内ではほぼ全ての私立高校が確約制度を採用しています。偏差値60以上の上位校でも例外ではなく、以下のような進学校も基準を満たせば確約が得られます。
- 栄東高校(偏差値70前後が基準)
- 開智高校
- 大宮開成高校
- 淑徳与野高校(6月北辰から対象など、学校によって基準月に違いあり)
- 浦和明の星女子高校
- 春日部共栄高校
- 西武学園文理高校
- 星野高校
- 細田学園高校
- 獨協埼玉高校
- 城北埼玉高校 など
各校はコース別に細かい条件を設定し、上位コースほど高い基準が求められます。
6. 確約制度が存在しない学校
一方、大学附属の最上位校には確約制度が存在しません。
- 慶應義塾志木高校
- 早稲田大学本庄高等学院
- 立教新座高校
なお、現時点で複数の塾や受験情報サイトで繰り返し指摘されている「確約が存在しない埼玉県内の上位校」としては、この3校(慶應志木・早大本庄・立教新座)が代表的です。ただし制度が非公式である性質上、他にも確約を実施していない学校が存在する可能性は否定できません。一方で、栄東、開智、大宮開成、浦和明の星などの上位私立は、偏差値基準は非常に厳しいものの確約制度を運用しているとされています。
これらは入試一発勝負で、北辰偏差値70を超えても「確約」を得ることはできません。受験生は独自の学力試験や推薦制度で挑む必要があります。
なぜかといえば、これらの学校は系列大学への進学がほぼ保証されているため圧倒的に人気が高く、生徒を「確約」で囲う必要がないからです。つまり市場原理上「売り手市場」の学校なのです。
7. 確約のスケジュール(例:2025年度入試)
- 7月~8月:第3回・第4回北辰テスト(最初の判定対象)
- 9月:第5回北辰テスト → 個別相談会開始
- 10月:個別相談会ピーク、確約が続々と出る
- 11月:第6回北辰(最後のチャンス)
- 12月~1月:出願、私立入試実施
特に9~10月は相談会の予約が殺到し、早期の準備が必須です。
8. なぜパブリックにされないのか?
- 建前は公平な入試:文部科学省や教育委員会は「試験で合否を判定する」と定めているため、公に確約を制度化できません。
- 形式上の入試維持:試験を形だけでも行う必要があるため、学校側は婉曲的に伝え、書面で「確約」とは言いません。
- 慣習化した“公然の秘密”:保護者・塾・学校の三者間で毎年当然のようにやり取りされ、文化的に定着しました。
このため、確約は「制度ではないが、実態として制度化している」特異な存在になっています。
9. 他県との比較
- 東京都:推薦入試が主流。内申点を基準に「単願推薦」「併願推薦」があり、合格率は高い。
- 神奈川県:併願優遇があり、内申点を満たせば合格がほぼ保証される。
- 千葉県:推薦・併願推薦あり。内申基準を満たすと合格率は高いが、埼玉のような“模試ベースの確約”はなし。
🎯 埼玉の特徴:北辰テストという外部模試を基準に、高校と受験生が直接合格を約束する点。
10. 確約を取るデメリットはあるのか?
確約制度について調べた範囲では、明確なデメリットはほとんど指摘されていません。むしろ「合格が保証される安心感」が最大の利点です。強いて言えば、確約を得たことで安心して学習意欲が下がってしまうケースが一部ある程度ですが、制度そのものに不利益はありません。したがって、取れるなら確約は積極的に取っておいた方が良いと言えます。
⚠️ 注意:各校の運用は毎年見直されます。最新の募集要項・学校説明会・塾情報で必ず確認してください。
まとめ
埼玉県の確約制度は、
- 公立志向の強さ
- 私立の経営上の必要性
- 北辰テストという基準の存在
によって生まれ、1990年代後半から急速に広まった仕組みです。偏差値60以上の進学校でも広く導入され、公立第一志望の受験生にとって「すべり止め」として不可欠な存在となっています。
ただし、慶應志木・早大本庄・立教新座など大学附属トップ校は確約を導入しておらず、ここでは実力勝負が求められます。
また、淑徳与野のように6月北辰も対象となる学校があること、単願と併願で基準が異なり、単願の方が優遇されやすいことなど、学校ごとに細かな違いがあります。これは必ず事前に塾や学校説明会で最新情報を確認する必要があります。
確約は公式には語られない“暗黙の了解”ですが、地域の受験文化を支える大黒柱とも言えます。受験生にとっては安心材料となる一方、過度な依存による学習意欲低下にも注意が必要です。
制度の背景を理解したうえで、賢く戦略的に活用することが志望校合格への近道となるでしょう。
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