目次
転職とキャリアを考えるということ
〜「選ばないこと」もまた、選択である〜
はじめに:みなさん、「キャリアを考える時間」を持っていますか?
みなさんこんにちは。今日は「転職」や「キャリア」をテーマに、少し深く考えてみましょう。 「転職」という言葉を聞くと、どうしても「会社を辞めて別のところへ行く」という行動を思い浮かべる方が多いと思います。 しかし本質的には、「転職=行動」よりも前に、「自分の人生をどう設計し、どう歩みたいか」という自己理解と選択の連続にこそ意味があるのです。
たとえば、いまみなさんが働いている職場において、「去年の自分と比べて何ができるようになったか」「どんな経験を積んだか」を即答できますか? これがいわゆる"キャリアの棚卸し"です。 毎年一度、少し立ち止まって、自分のスキルや価値観を点検する。 これが「転職する・しない」にかかわらず、これからの時代を生き抜くうえで非常に大切な習慣になります。
第1章:終身雇用という幻想のゆらぎ
かつての日本社会では、「1つの会社に勤め上げること」が美徳とされました。 いわゆる"終身雇用"です。1960〜80年代の高度経済成長期には、多くの企業が右肩上がりで成長し、社員を長期的に雇うことができました。 しかし、今やその構造は大きく変化しています。
総務省の労働力調査によると、転職者数は2023年時点で約351万人。 これは統計を取り始めてから最大級の数字です。 大企業でも「成果主義」や「早期退職制度」が進み、「会社に守られる」という時代ではなくなりました。
とはいえ、「終身雇用の時代は終わった」と言い切るのも早計です。 実際、大手企業の中では今でも定年まで勤める社員が一定数います。 ただし、それは「仕組みとして保証されている」わけではなく、「結果として残る人がいる」というだけの話です。
つまり、終身雇用は制度から"結果"へと変わったのです。
第2章:選ばないことも選んでいる ー『風の分かれ道』より
ここで、ぽちょ研究所の短編小説『風の分かれ道』を思い出してください。
「選ばないことは、すでに選んでいるのだと。」
この一文が、まさにキャリアの本質を突いています。
人は、転職を「しない」ことを選んでいるつもりがなくても、 「いまの職場に留まり続ける」という選択を、 実は無意識のうちにしているのです。
選ばないという行為もまた、選択の一種。 だからこそ、私たちは定期的に「このままでいいのか?」と自分に問い直す必要があるのです。
何も変えないことは安心です。 しかし、それは「変えない」という決断をしているということ。 そして、その決断が積み重なることで、人生という物語の方向が決まっていくのです。
第3章:キャリアを"意識する人"と"流される人"の差
では、実際にキャリアを考える人と、そうでない人の間にはどんな差が生まれるのでしょうか。
たとえば高校の同窓会を想像してみましょう。 卒業後すぐ働いた友人もいれば、大学に進学した友人もいる。 10年ぶりに再会したとき、ある人はこう言いました。
「俺は大学に行かなかったからなぁ。結局、今の仕事を一生続けるしかないんだ。」
でも本当にそうでしょうか? 学歴がキャリアを決める時代は終わっています。 ITやAIの普及により、学び直し(リスキリング)やスキル転換(キャリアシフト)の機会は増えました。
たとえば、未経験からプログラミングを学んでエンジニアになった人、 副業でデザインを学び、独立した人もいます。 つまり、自分の可能性を信じるかどうかで未来は変わるのです。
一方で、「変化を嫌う」という性格もあります。 変化を望まないこと自体が悪ではありません。 ただ、「知らない」ことを理由に挑戦しないのは、あまりにももったいない。
第4章:選択を避ける心理と脳のメカニズム
では、なぜ人は「変わること」「選ぶこと」を恐れるのでしょうか。
心理学的には、これを「現状維持バイアス(status quo bias)」と呼びます。 これは、人間が変化による損失を過大に恐れる心理的傾向のこと。 カーネマンとトヴェルスキーの行動経済学によれば、人は同じ価値の"得"よりも"損"を約2倍強く感じるといわれています。
つまり、「転職して年収が上がるかもしれない」よりも、「転職して失敗するかもしれない」という不安のほうが、脳に強く響くのです。
さらに遺伝的な傾向もあります。 米・ミネソタ大学の研究では、リスクを取る傾向の40〜50%が遺伝的に説明できるという結果が出ています。 つまり、「挑戦できる性格」かどうかは、ある程度先天的な要素も含まれているのです。
しかし、人間は環境によって行動を変えられる存在でもあります。 心理学者アルバート・バンデューラの「自己効力感(self-efficacy)」の理論によれば、 「自分はできる」と思える体験を少しずつ積み重ねることで、人は変化への抵抗を減らしていけます。
第5章:キャリアの"分散投資"という考え方
ここで少し経済の話をしてみましょう。
現金を日本円で銀行に置きっぱなしにしておく。 これも実は「リスクを取らない」という選択ではなく、 「インフレや為替変動というリスクを取っている」という選択です。
たとえば、10年前の100円と今の100円は同じ価値ではありません。 インフレ率を考慮すると、実質的な購買力は下がっています。
キャリアも同じです。 「変化しないこと」は、キャリア価値の目減りというリスクを抱えています。 だからこそ、ひとつのスキルや職場に依存せず、 複数の能力・経験を持つ"分散型キャリア"が求められる時代です。
副業、資格取得、AIツールの活用、社外プロジェクトへの参加…。 どれもが、自分の「キャリア資産」を増やす"投資"なのです。
第6章:歴史が語る「決断」の力
歴史を振り返ると、時代を動かした人物たちは、みな決断の人でした。 アインシュタインも、エジソンも、そして日本の多くの起業家たちも。
もちろん彼らは成功の裏で、数え切れないほどの失敗と決断をしています。 決断とは「未来を保証する行為」ではなく、「不確実性を引き受ける覚悟」です。
私たちのキャリアも同じです。 転職する、しない。挑戦する、しない。 どちらの道にも正解はありません。 ただ、「考えることをやめない」ことが、唯一の不正解を避ける方法です。
まとめ:あなたのキャリアは、あなたの選択の積み重ね
みなさん、もう一度『風の分かれ道』のラストシーンを思い出してください。
「選ばないことは、すでに選んでいるのだと。」
キャリアもまったく同じです。 選ばないことで、いつの間にか「風の止まった方角」に立ち尽くしていることもある。 だからこそ、定期的に自分を見つめ直し、 「今の自分はどんな選択をしているのか」を意識してみてください。
転職をする・しないは問題ではありません。 いつ転職しても後悔しない準備をしているか。 それこそが、人生を主体的に生きるための最も確かな姿勢なのです。
みなさんもぜひ、ぽちょ研究所の短編小説『風の分かれ道』を読んでみてください。 静かに吹く「風の音」の中に、あなた自身のキャリアの分かれ道が見えてくるかもしれません。