2029年、大学入試は「AO中心」になるのか?総合型選抜・一般選抜の未来と、現役高校生が今やるべきこと

2025年度は総合型・学校推薦型による入学者が53.6%に達した一方、国立大学では20.4%にとどまります。2027〜2029年度の確定事項と予測、筑波大学・東北大学をめぐる誤解、評定と学校偏差値、生成AI時代の面接、学年別の準備を一次情報と研究から整理します。

2029年の大学入試が一般選抜と総合型選抜の複線化へ進むことを表すカバー画像
一般
公開日: 2026年7月20日
読了時間: 21
著者: ぽちょ研究所
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1. 結論:「テストがなくなる」のではなく、「一つのテストだけでは決めなくなる」

2026年7月20日時点で大学入試を見通すと、最も重要な結論は、一般選抜が消えて総合型選抜だけになるのではなく、学力試験と人物・活動評価が互いに入り込む「複線化」が進む、ということである。現高校3年生が受ける2027年度入試は制度と日程の大枠がほぼ確定し、現高校2年生の2028年度入試も大学入学共通テストの骨格が公表済みである。現高校1年生が対象となる2029年度入試は、国全体の最終要項はまだ出ていないが、大学ごとの変更予告が出始め、方向性はかなり読める。

ここで年度の呼び方を整理しておく。2027年度入試とは、主として2026年秋から2027年冬に選抜し、2027年4月に入学する入試である。2028年度入試は現高校2年生、2029年度入試は現高校1年生が中心になる。なお、かつてのAO入試は2021年度入試から原則として総合型選抜と呼ばれるようになった。AOとは Admissions Office の略であり、成績のAやOを意味しない。名称が変わっても「AO」という言葉が残っているのは、制度改革より日常語の寿命のほうが長いという、入試界らしい小さな雑学である。

よくある見方2029年度までの現実的な見通し
一般選抜がなくなる難関国公立・大規模私大では中核として残る
総合型なら学力試験がない共通テスト、独自試験、資格、口頭試問との併用が増える
活動実績が派手なら有利活動と学問の接続、証拠、継続、説明力が重くなる
AIで志望理由書を整えればよい本人が追加質問に答えられるかの確認が厳しくなる
一般かAOのどちらかに早く絞る教科学力・評定・探究を並行する三層戦略が安全
2027年から2029年にかけて一般選抜と総合型選抜が交差していく概念図

図1:一本道から複線へ。教科試験と活動・人物評価は置き換わるのではなく、互いの要素を取り込みながら並走する。

2. すでに入学者の過半数は総合型・推薦型、ただし国立と私立は別世界

文部科学省が公表した2025年度入学者の集計では、総合型選抜による入学者は12万6766人で全体の19.5%、学校推薦型選抜は22万1415人で34.1%だった。合計は53.6%に達する。数字だけ見れば、一般選抜より総合型・推薦型のほうが大きい時代に入っている[1]

しかし、この53.6%を全国一律の傾向として読むと判断を誤る。国立大学では総合型7.7%、学校推薦型12.7%で合計20.4%である。公立大学は32.9%、私立大学は総合型22.8%と推薦38.8%を合わせて61.6%である。私立には指定校推薦、附属校・系属校からの内部進学、学部ごとの多様な方式が含まれるため、「受験生の半数が自由応募のAOで決まる」という意味ではない。

設置区分総合型選抜学校推薦型選抜合計
国立大学7.7%12.7%20.4%
公立大学6.0%26.9%32.9%
私立大学22.8%38.8%61.6%
全大学19.5%34.1%53.6%

さらに志願者数は延べ人数である。1人が同じ大学の複数方式や複数学部に出願すれば、その回数だけ数えられる。2026年度の慶應義塾大学一般選抜は延べ4万2033人だったが、実志願者は2万8133人で、1人当たりの平均出願は1.49件だった。人気ランキングを見るときは、大学の魅力だけでなく、試験方式の多さ、共通テスト利用の有無、併願割引、試験日程まで数字に入り込んでいると理解する必要がある。

総合型選抜と学校推薦型選抜の合計53.6%と設置区分による差を示す図

図2:全国平均53.6%だけでは実態を読めない。国立20.4%と私立61.6%では、受験戦略そのものが異なる。

3. 総合型選抜と学校推薦型選抜は何が違うのか

総合型選抜は、原則として本人の意思で出願する公募制で、活動報告書、志望理由書、学修計画書など本人が作成する資料を必ず用いる。大学は書類だけでなく、面接、口頭試問、プレゼンテーション、討論、小論文、実技、資格試験、大学入学共通テスト、独自の教科試験などを組み合わせる。したがって、「面接だけで入る試験」でも「学力を問わない試験」でもない。

学校推薦型選抜は、出身高校長の推薦と調査書を中心に判定する点が違う。指定校推薦では大学が特定の高校に枠を与え、校内選考を通過した生徒が出願する。公募推薦では大学が示す評定、資格、履修科目などの条件を満たし、高校長の推薦を得て応募する。日常会話では両方を推薦入試とまとめることがあるが、制度上、総合型選抜は学校推薦型選抜の一種ではない。

実際の総合型選抜は、おおむね五つの型に分けられる。第一は書類と面接、第二は小論文と口頭試問、第三は研究・作品・競技実績などのポートフォリオ、第四はプレゼンテーションや集団討論、第五は共通テストや独自試験を加えた学力併用型である。難関大学ほど第五の要素が強くなりやすい。東京大学の学校推薦型選抜は、提出資料と面接に加え、共通テストで概ね8割以上を目安としている。一橋大学の学校推薦型選抜も共通テスト、資格・検定、小論文、面接、自己推薦書などを組み合わせる。年内入試だから受験勉強をしなくてよい、という発想は難関校では成立しにくい。

筆記試験、書類、活動、面接を組み合わせる総合評価の図

図3:総合型は「面接だけ」ではない。書類、教科学力、成果物、口頭確認を組み合わせる総合評価である。

4. 2027年度から2029年度まで、何が確定し何が予測なのか

2027年度:現高校3年生

2027年度大学入学共通テストは2027年1月16日と17日に行われる。総合型選抜は2026年9月1日以降に出願受付、11月1日以降に結果発表、学校推薦型選抜は11月1日以降に出願受付、12月1日以降に結果発表という国の原則が示されている。一般選抜の教科・科目試験は2027年2月1日から3月25日の範囲で実施される[2][3]

大きな制度変更は、総合型選抜と学校推薦型選抜で、志望分野への意欲や適性を確かめる面接を原則として行うことが明確化された点である。ここでいう面接には、口頭試問、プレゼンテーション、討論なども含まれる。既存の選抜区分で直ちに導入できない場合も、遅くとも2029年度入試までに導入することが求められた。したがって現高校1年生の入試までに、「書類を出して終わり」の方式はさらに減り、その場で本人の理解と表現を確かめる選抜が広がる可能性が高い。

ただし、7月時点で公表されているのは選抜要項や変更予告であり、一般選抜の最終募集要項を秋に公表する大学も多い。現高校3年生は、入試ガイドではなく、出願する年度の正式な募集要項を必ず確認する必要がある。

2028年度:現高校2年生

2028年度共通テストは2028年1月15日と16日に実施される。国語、地理歴史、公民、数学、理科、外国語、情報の枠組みは維持され、「情報Ⅰ」も続く。試験は紙の問題冊子とマークシートで行われ、英語リスニングにはICプレーヤーを使う。生成AIの時代だから一気にコンピューター試験へ移る、という変化は少なくともここまでは起きない。大学入試センターが答案をOMRで読み取っていることも公表している[4]

一方、共通テストは知識だけでなく思考力、判断力、表現力を重視するという設計を掲げている。一般選抜も、単純な用語暗記から、長い資料の読解、複数データの比較、条件を整理した推論へ比重を移している。一般選抜と総合型選抜の差は、学力を問うか問わないかではなく、標準化された一斉試験をどこまで中心に置くかという差になっていく。

2029年度:現高校1年生

2029年度の全国共通の詳細はまだ確定していない。しかし大学別には予告が始まっている。早稲田大学商学部は2029年度から入学定員を900人から850人へ減らし、一般選抜を540人から505人、学校推薦型を360人から345人へ変更する予定である。一般だけを削って推薦へ全面移行するのではなく、両方を残しながら規模を調整する[5]。慶應義塾大学も学部単位で数年先の変更予告を公表している。改革は大学全体を一夜で入れ替えるのではなく、学部単位で段階的に進む。

現高校1年生に最も起こりそうなのは、総合型の募集枠が少しずつ広がる一方、共通テスト、英語資格、数学資格、独自の基礎学力確認を組み込む方式が増えること、そして面接が「志望理由の朗読」から「提出物を本人が説明し、反論や追加質問に答える口頭試問」へ近づくことである。一般選抜も調査書や英語外部試験、共通テスト併用などを使い、両者の境界は薄くなる。

2027年度、2028年度、2029年度入試の確定度を示す時系列図

図4:2027年度は要項段階、2028年度は共通テストの骨格が判明、2029年度は大学別予告から方向を読む段階にある。

5. 「筑波大学が100%AO化」は事実か

「筑波大学が100%総合型選抜になる」という公表済みの計画は確認できない。しばしば混同されるのは、東北大学がAO入試を長年重視し、将来的な比率拡大を語ってきた事実である。ただし「2050年までに100%AO」という表現は、現時点の正式な募集要項で確定した工程表ではなく、長期ビジョンとして扱うべきである。2050年は現高校生の入試より20年以上先であり、これをそのまま2029年度の首都圏上位大学に当てはめることはできない。

また東北大学のAOは、単なる人物面接ではない。公式案内は「優れた学力」を重視すると明記し、共通テストを使うⅢ期に加え、Ⅱ期でも学部によって筆記試験と面接を組み合わせる[6]。人物評価と学力を対立させず、両方を測る設計である。

筑波大学には、旧来のAOに近いAC入試がある。2025年度実績では募集43人に361人が志願し、39人が合格した。最近2年以上の継続的な活動や研究から問題発見・解決能力を示し、書類通過者は面接・口述試験を受ける。適格者がいなければ募集人員を満たさず、その分を一般選抜に回す方針も明記されている[7]。ここから分かるのは、総合型とは「入り口を広くして全員を通す制度」ではなく、大学が別の物差しで厳しく選ぶ制度だということである。

首都圏上位校を見ると、全面AO化からは遠い。東京大学は一般選抜を大規模に維持し、学校推薦型は各学部合計で約100人規模である[8]。一橋大学も一般選抜が募集の中心である。上智大学は全学部・学科の公募推薦、一般選抜のTEAP利用や共通テスト利用を並存させる。早稲田、慶應、青山学院、明治、立教、中央、法政も、学部限定の自己推薦、自由選抜、公募推薦、英語資格利用などを備える一方、一般選抜を大規模に維持している。2029年までの現実的な予測は「AOへの置き換え」ではなく「選抜方式の組み合わせが増える」である。

6. なぜ大学は総合型選抜を増やすのか

第一の理由は、試験当日の得点では見えにくい能力を評価したいからである。ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・ヘックマンとティム・カウツは2012年、達成度テストだけでは動機、目標、粘り強さなどの非認知的側面を十分に捉えられないと論じた[9]。研究、探究、制作、社会活動を長く続けた事実は、興味の持続性や試行錯誤の質を見る材料になる。

ただし、面接で人間力を正確に測れると決まったわけではない。文部科学省の大学入学者選抜実態調査では、評価観点の設計、点数化、業務時間、公平性の確保が課題として現れる[10]。選考者が多くの書類を読み、複数回の面接を行う方式は、数万人を同じ問題で比較できる筆記試験より高コストで、評価者間のばらつきも起こりやすい。だから総合型だけに一本化するより、共通テストなどの比較可能な指標と併用する大学が増える。

第二の理由は高大接続である。大学が欲しいのは、肩書の多い高校生ではなく、自校の教育で伸びる学生である。筑波大学AC入試が活動の結果だけでなく過程を求め、東京大学が幅広い基礎学力と問題を関連づける力を重視するのは、そのためである。大学は合格時の印象だけでなく、入学後の学業成績、休学、中途退学なども使って選抜の妥当性を検証し、制度を修正する。

第三の理由は少子化と経営である。文部科学省の推計では18歳人口は2025年の約110万人から2035年に約96万人、2040年に約74万人へ減る[11]。現在の入学定員規模を維持した場合、留学生が増えても充足は厳しくなる。早期に志望度の高い学生を確保したい大学が年内入試を増やす経営上の動機は否定できない。ただし、難関大学の総合型拡大と、定員確保を急ぐ大学の年内入試拡大は目的が同じではない。前者は選抜の精密化、後者は学生確保の比重が相対的に大きくなり得る。

第四の理由が生成AIである。2025年、加美山若奈と倉元直樹は、志願者本人が作る書類に文章生成AIが与える懸念を大学入試研究ジャーナルで扱った[12]。文章だけを見て本人の思考を判定することは難しくなっている。2027年度以降に面接や口頭確認が重くなることをAIだけの影響と断定はできないが、提出文書の真正性をその場で確かめる必要性と方向が一致している。今後強くなるのは、完成した文章の華麗さより、なぜその問いを立て、どの資料を使い、失敗後に何を変えたかを自分の言葉で説明する力である。

総合型選抜が増える四つの要因を示す図

図5:能力の多面評価、高大接続、少子化、生成AI。四つの圧力が、書類だけでも一斉試験だけでもない選抜を押している。

7. どんな受験生が総合型選抜で合格しやすいのか

合格者に共通しやすいのは、派手な実績ではなく、学問との接続が説明できることである。地域のごみ問題を調べたなら、清掃活動に参加した事実だけでなく、廃棄量を測り、原因仮説を立て、自治体資料と比較し、提案の限界まで述べられることが重要になる。全国大会や海外留学は強い証拠になり得るが、それだけで合格するわけではない。逆に、学校内の小さな探究でも、データ、読書、検証、修正が積み重なっていれば評価材料になる。

総合型で問われやすいのは、第一に基礎学力、第二に継続的な関心、第三に証拠、第四に言語化、第五に大学との適合である。志望理由書は自伝ではなく、「何を明らかにしたいか」「なぜその学部でなければならないか」「入学後に何を学ぶか」をつなぐ研究計画の入口に近い。面接では、書いた内容の定義、根拠、反対意見、データの限界を問われる。AIや塾が整えた文章でも、五分の追加質問に耐えなければ弱い。

AO専門塾やオンライン講座はすでに存在し、小論文、面接、活動設計、ポートフォリオ作成を支援している。利用自体が不利になるわけではないが、添削によって文章が均質化し、本人の観察や迷いが消える危険がある。価値のある支援は、代筆や肩書づくりではなく、問いを絞る、先行研究を探す、データを取り直す、反論を受ける練習である。活動を十個並べるより、一つの問いを二年間追い、途中の失敗を記録したほうが説得力を持つ場合がある。

基礎学力、継続的探究、証拠、説明力を積み上げる図

図6:活動の数ではなく、基礎学力の上に探究・証拠・説明力が積み上がっているかが重要になる。

8. 偏差値70の高校でオール4と、偏差値35の高校でオール5はどちらが有利か

大学入試で使われる正式な材料は、主として調査書の学習成績の状況であり、一般に高校受験で語られる学校偏差値ではない。全国共通の「高校偏差値補正表」は存在せず、公開された統一計算式で評定を学校ランクに換算する制度もない。

したがって、評定条件だけを見れば、偏差値35程度の高校でオール5の生徒が、偏差値70程度の高校でオール4の生徒より有利になる方式はある。指定校推薦では、そもそもどの高校にどの枠があるか、校内で誰と競うかが決定的であり、オール5は強い。一方、共通テスト、独自試験、英語資格、数学資格を課す方式では、難度の高い授業環境で鍛えられたオール4の生徒が客観得点で優位に立つこともある。

米国シカゴ大学のエレイン・アレンズワースとカリー・クラークが2020年に約5万5000人を分析した研究では、高校GPAはACTより大学卒業を強く予測した一方、同じGPAでも出身高校によって卒業率が異なった[13]。つまり評定には、日々の努力を捉える強みと、学校間で尺度が違う弱みが同時にある。ダートマス大学の2024年の検討でも、標準テストを家庭環境や高校の文脈と組み合わせることで、不利な環境にいる高達成者を見つけやすくなるとされた[14]。最も公平に近いのは、評定かテストのどちらか一方ではなく、両方を背景情報とともに読む方法である。

日本の受験生に置き換えれば、評定、共通テスト、資格、探究成果という「学校外でも通用する証拠」を複数持つほど、出身校の有利不利を小さくできる。難関高校の看板だけでも、易しい学校での高評定だけでも足りない。大学が確認したいのは、環境の中で何を選び、どこまで伸びたかである。

公開データにも限界がある。多くの大学は、選抜区分別の出身高校一覧、評定分布、面接点を公表していないため、「この高校なら総合型に強い」と全国一律に順位づけすることはできない。指定校推薦では、偏差値35程度の高校に志望大学の枠そのものがない場合があり、オール5でも出願できない。高校選びでは学校偏差値だけでなく、指定校枠の実績、校内推薦基準、探究・論文・面接指導、一般選抜での進学実績を分けて確認する必要がある。

9. 2026年春の人気校と、2027年度の難易度上位帯

2026年度の主要私立大学22校について、一般方式と共通テスト利用方式の延べ志願者数を合計すると約161万件で、前年より7%増えた。首都圏の主要校を志願者数順に並べると、東洋大学11万9233人、明治大学11万5012人、日本大学11万1902人、法政大学11万1240人、早稲田大学9万4438人、中央大学7万3363人、立教大学7万194人、東京理科大学6万1979人、青山学院大学5万4444人、慶應義塾大学4万2033人、上智大学3万1946人となる[^15]。

学部別の動きには、社会の関心も表れる。2026年度は主要私大で法学人気が続き、理工・農学系の共通テスト方式も伸びた。AI・データ、環境、文理融合の看板は注目を集めやすいが、新設初年度は過去倍率がなく、期待と不確実性が同時に大きい。

これは「大学の格」の順位ではない。学部数が多い大学、共通テスト利用で出願しやすい大学、複数併願がしやすい大学ほど増えやすい。早稲田は前年を2%下回ったが、それだけで人気低下とは言えず、共通テスト利用方式の減少や方式変更の影響を分けて見る必要がある。東洋、明治、日本、法政の10万人超えは、首都圏私大入試が上位校だけでなく、併願の組み方によって大きく動くことを示している。

国公立大学は前期・後期の日程や共通テストによる出願判断があり、私立のように同一人物が多数の方式へ出願する構造ではない。したがって国公立と私立を同じ志願者数ランキングに混ぜず、国公立は共通テスト得点率、二次試験科目、募集人数、段階選抜を含む方式別難易度で比較するほうが正確である。

河合塾の2027年度予想の方式別ボーダーでは、文系私大の上位例として早稲田大学政治経済学部や社会科学部の一部方式が70.0、慶應義塾大学法学部、早稲田大学法学部などが67.5の帯にある[^16]。ただし、偏差値70の1科目・共通テスト併用方式と、偏差値67.5の4科目方式を単純比較してはいけない。ボーダーは合格可能性50%の目安で、科目数、配点、母集団、募集人数が違う。ランキングの正しい使い方は、大学名を一列に並べることではなく、自分が受ける方式の科目負担、共通テスト比率、英語資格条件、倍率を照合することである。

10. 一般選抜は残るのか、暗記型勉強は捨ててよいのか

一般選抜は少なくとも2029年度まで、難関国公立と大規模私大の中核として残る可能性が極めて高い。東京大学や一橋大学の募集構造、早稲田商学部の2029年度計画、共通テストが紙とマークシートで継続する事実が、その根拠になる。大人数を同じ尺度で比較でき、選考コストが比較的低く、合否理由を説明しやすい教科試験には、総合型で代替しにくい機能がある。

一方で、丸暗記だけを強化する勉強は効率が下がる。必要なのは知識を減らすことではなく、知識を使える形にすることである。語彙、公式、歴史事項、文法は思考の材料であり、覚えなければ推論もできない。しかし、資料を読んで因果関係を組み立てる、数値を比較する、別解を説明する、短い文章で根拠を書く練習まで必要になる。東京大学自身も、知識の詰め込みより、持っている知識を関連づけて解を導く力を重視すると明記している。

したがって最適戦略は、一般対策かAO対策かの二者択一ではない。教科の基礎と模試成績を第一層、学校成績と履修の積み重ねを第二層、探究・活動・論述・面接を第三層とする三層構造である。総合型に不合格でも一般選抜へ移れ、一般選抜を中心にする場合も志望理由や探究の経験が小論文、面接、大学での学びに生きる。早い段階でAO専願に賭けて教科を止めることが、最も危険な選択になる。

教科学力、学校成績、探究と面接の三層戦略を示す図

図7:受験戦略は三層で持つ。どれか一つへ早期に全賭けせず、互いを保険と強みにする。

11. 世界は「入りやすく卒業しにくい」のか

海外大学を一括して「入学は簡単、卒業は難しい」と表現するのは正確ではない。米国のハーバード大学やダートマス大学のような上位校は入学自体が極めて競争的で、成績、活動、推薦状、エッセーを総合評価しながら、近年はSATやACTの提出を再び必須にした。ハーバードは点数だけで合否を決めず、高校の文脈の中で多数の材料の一つとして扱うと説明している[^17]。人物評価と学力指標の併用は、日本が向かう方向とも重なる。

英国ではUCASが2026年入学から、従来の一続きの志望理由書を三つの質問に分けた。志望分野への動機、学校での学び、学校外での準備を合計4000字以内で示す[^18]。自由作文をなくしたのではなく、大学が比較したい情報を構造化したのである。日本でも、自由な美文より、質問に対して根拠を明確に答える書式が増える可能性がある。

一方、フランスのように高等教育への受入率が高い制度では、公立大学で標準修業年限内に学士を修了した割合は2023年に34%、1年延長して46%だった。確かに「入口が広く出口が厳しい」例である。しかしOECDの30以上の国・地域全体では、学士課程を標準年限内に終える割合は43%、1年後59%、3年後70%で、国による差が大きい[^19]。日本が直ちに欧州型へ変わるというより、入試だけで選び切る発想から、入学後の学修成果も含めて制度を評価する方向へ少しずつ移ると見るべきである。

12. 現高校3年生、高校2年生、高校1年生が今から行うこと

現高校3年生

総合型・推薦型の候補を一つか二つに絞り、出願条件、専願か併願可か、評定、資格、試験日、共通テストの要否を表にする。志望理由書の各主張に根拠資料を付け、想定質問への口頭回答を練習する。同時に、拘束力のある合格が確定するまでは一般選抜の学習を止めない。

現高校2年生

評定を安定させ、志望分野を仮決めし、一つの探究を継続する。専門書や大学教員の一般向け著作を読み、統計や一次資料を使い、800字から1200字程度で問い、根拠、反論、結論を書く練習を重ねる。英語資格が必要な学部を考えるなら、高校2年の終盤から高校3年前半までに利用可能なスコアを確保する。資格は目的ではなく、教科力を外部で証明する手段である。

現高校1年生・中学3年生

早すぎるAO特化より、読解、作文、数学、英語、情報活用を厚くする。学校行事や部活動を無理に増やすのではなく、興味を持った問いについて、読んだ本、調べたデータ、実験、失敗、修正を日付入りで残す。後から美しい物語を作るより、過程の記録が強い。保護者の役割は、締切と費用の管理、大学情報へのアクセス、外部機会の確保であり、志望理由書を親の文章に変えることではない。

学年最優先週・月単位で残すもの避けたい判断
高3正式要項と出願条件の確定根拠付き志望理由、口頭回答、教科進捗総合型出願を理由に一般対策を止める
高2評定の安定と探究の継続読書、一次資料、データ、反論、修正履歴資格取得だけを活動実績にする
高1・中3読解・数学・英語・情報の土台興味の記録、実験、失敗、問いの変化肩書づくりのため活動数を増やす

13. ぽちょ研究所としての結論

2027年度から2029年度にかけて起きるのは、総合型選抜が一般選抜を駆逐する変化ではない。総合型・推薦型には学力確認と口頭試問が入り、一般選抜には共通テスト、外部資格、調査書、記述や思考問題が入り込む。試験の一発勝負だけで決まる割合は緩やかに下がるが、比較可能な教科学力の価値はむしろ再確認される。

有利になるのは、評定だけ、偏差値だけ、活動実績だけに偏らず、基礎学力、継続した探究、証拠、説明力を同時に持つ生徒である。不利になるのは、総合型なら勉強不要と考える生徒、一般選抜なら暗記だけで十分と考える生徒、AIや塾が作った整いすぎた文章を自分で説明できない生徒である。

現高校1年生が受ける2029年度入試を一言で表すなら、「テストがなくなる」のではなく、「一つのテストだけでは決めなくなる」である。教科を学ぶことと、自分の問いを持つことを別々の受験対策にしない。その二つを結びつけた受験生が、国立・私立、一般・総合型のどちらにも対応できる。


参考文献 / References

  1. 令和7年度 国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要 — 文部科学省
  2. 松本洋平文部科学大臣記者会見録(令和8年5月29日)— 文部科学省
  3. 令和9年度 大学入学共通テストQ&A — 大学入試センター
  4. 大学入学共通テストの業務と実施経費 — 大学入試センター
  5. 2029年度からの商学部入学定員および収容定員の変更について — 早稲田大学
  6. AO入試(総合型選抜)— 東北大学アドミッション機構
  7. AC入試・特別入試 GUIDEBOOK 2026 — 筑波大学
  8. 学校推薦型選抜 — 東京大学
  9. Hard Evidence on Soft Skills — NBER
  10. 令和6年度大学入学者選抜実態調査の結果 — 文部科学省
  11. 我が国の「知の総和」向上の未来像 — 文部科学省
  12. 志願者本人記載書類作成に関する文章生成AIの影響懸念 — J-STAGE
  13. High School GPAs and ACT Scores as Predictors of College Completion — Educational Researcher
  14. Reactivating Dartmouth’s Testing Policy — Dartmouth Admissions
  15. 2026年度入試状況分析(私立大)— 駿台予備学校
  16. 2027年度入試難易予想ランキング表 — 河合塾 Kei-Net
  17. Do I need a minimum required SAT or ACT score? — Harvard College
  18. How to write your personal statement: 2026 entry onwards — UCAS
  19. Who is expected to complete tertiary education? — OECD Education at a Glance 2025

参考文献・出典

  1. [1]文部科学省の2025年度集計は、選抜区分の整理変更や外国人留学生を含む範囲の変更があるため、前年との単純比較には注意が必要である。本記事では同年度内の構成比として用いた。
  2. [2]2027年度の日程は国の実施要項と大学入試センターの公表情報に基づく。大学・学部ごとの締切と試験日は必ず正式募集要項で再確認してほしい。
  3. [3]総合型・学校推薦型の面接原則化には、口頭試問、プレゼンテーション、討論などを含む。既存区分で直ちに対応できない場合の経過措置もあるため、全大学が同じ形式になるわけではない。
  4. [4]出願手続のオンライン化と、試験本体のコンピューター化は別の話である。共通テストの出願はデジタル化されても、答案処理は現行のマーク方式を前提としている。
  5. [5]早稲田大学商学部の数値は2026年4月公表時点の予定。2029年度の受験生は最終募集要項で確定値を確認する必要がある。
  6. [6]「2050年までに100%AO」は現時点で各年度の募集人員を拘束する正式要項ではない。本記事では、東北大学がAOを重視する方向性と、確定済みの年度別制度を分けて扱った。
  7. [7]筑波大学AC入試の実績は全学合計。学群・学類ごとに募集人数、評価資料、面接内容は異なる。
  8. [8]東京大学の推薦募集は学部別の上限を合計した概数。実際の合格者数は適格者の状況により募集枠を下回る場合がある。
  9. [9]非認知的能力は、教科学力と対立する「人柄の良さ」ではない。目標、動機、粘り強さなど、標準テストだけでは十分に捉えにくい側面を指す。
  10. [10]総合評価には情報量が多い利点がある一方、評価者訓練、採点基準、業務量、学校や家庭による機会差を管理する必要がある。
  11. [11]2040年約74万人は出生低位・死亡低位を基にした推計であり、推計条件によって幅がある。方向として大幅減少が避けにくいことが重要である。
  12. [12]生成AI利用を一律に不正とみなす議論ではない。大学が確認すべきなのは、提出文書が本人の経験・理解・判断を正しく表しているかである。
  13. [13]GPAとACTの研究結果を、そのまま日本の評定制度へ移植することはできない。ただし、継続的評価の予測力と学校間尺度差が同時に存在するという示唆は参考になる。
  14. [14]ダートマスの検討は同大学の応募者集団を対象とする。標準テスト必須化があらゆる大学・国で同じ効果を持つと断定する材料ではない。

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