目次
はじめに
「高所得者は補助金の対象外」――子育て、教育、エネルギー対策などで設けられてきた“所得制限”。一見もっともらしく見えますが、税の大部分を支える高所得者を「納めるだけ・受け取るな」と扱うのは合理的でしょうか。ファーストクラス理論で考えます。
1. ファーストクラス理論:誰が“飛行機”を支えているか
- エコノミーの低運賃は、ファースト/ビジネスの高運賃があるから成立。
- 「飲み物はエコノミーだけ、ファーストは不要」は筋が通らない。
税でも同様に、高所得者の多額の納税が公共サービスと補助の土台。彼らが給付対象であるのは原理的に当然です。
2. 高所得者の税負担(データ)
国税庁「民間給与実態統計調査(令和5年分)」より:
- 平均年収は約460万円
- 年収800万円超は全体の約10〜12%(上位1割強)
- 所得税収は上位20%で約70%を負担
→ 少数が税収の大半を担う構図が明確です。
3. 所得制限の撤廃の動き(改善)
- 児童手当:2024年10月から所得制限撤廃
- 高校授業料支援(例:東京都私立):所得制限撤廃へ
- 大学授業料支援(2025年度〜多子世帯):所得制限なしで減免
普遍主義へと舵を切る動きが始まっています(少子化対応・行政効率・不満緩和等の観点)。
4. なお残る「お金持ちは受け取るな」発想の背景
1) 平等と公平の混同:弱者優先=正義と短絡しがちで、強者には不要という誤解が生まれる。
2) メディアのフレーミング:低所得救済を前面に出し「高所得への給付=無駄」という印象が強化。
3) 妬み・感情的反発:豊かな層が受け取ると“ずるい”と感じる規範が残存。
5. なぜ不合理か(政策設計の観点)
- 高所得者も国民であり、巨額の納税を通じて既に社会を支えている。
- 給付の一定割合は税として戻るため、ネットでの不公平は想像より小さい。
- 所得制限の線引きは行政コストや歪み(手取り逆転など)を生む。
→ 普遍的な設計の方が公平性・効率性・納得感が高い。
6. 公平な社会のために(提案)
1) 「支払った人も受け取る」原則:多く納めた人が対象外になる理屈は弱い。
2) 所得制限の乱用抑制:設計をシンプルにし、行政コストと歪みを最小化。
3) 価値観の更新:
- 「高所得者=搾取対象」という古いイメージから脱却
- 納税者全員を尊重する文化へ
まとめ
- 高所得者は少数だが税収の大半を担う。
- 所得制限撤廃の動きは、公平性回復の兆し。
- 「受け取るな」発想は感情に依存し、政策の合理性を損なう。
- 普遍主義的な制度設計が、持続可能で公正な社会に近い。
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