目次
なぜ、最新AIに競馬を予想させてみようと思ったのか
普段はClaude Fable 5やClaude Codeを開発や記事執筆のパートナーとして使っている筆者だが、今回はあえて「実務」を離れ、競馬というエンターテインメントの領域でFable 5を試してみることにした。理由は単純で、最新のAIに「勝てるかどうか分からない、でも面白い」勝負をさせてみたかったからだ。
最初から儲けるつもりはなかった。目的はAIが不確実性の高いギャンブルの予測にどこまで太刀打ちできるのかを見てみること、それに尽きる。エンジニアとしての好奇心9割、万馬券への淡い期待1割、というのが正直な配分だった。
舞台に選んだのは2026年7月12日(日)、福島競馬場の通常開催。あえてG1やG2ではなく、情報の少ない3歳未勝利戦と、ハンデ戦のG3・七夕賞という組み合わせにしたのには理由がある。重賞は出走馬の対戦成績や調教情報が豊富で、AIも人間も予想しやすい。逆に未勝利戦は「まだ何者でもない馬」ばかりで、市場(オッズ)自体が粗い。ここでAIがどこまで歪みを見つけられるかを見たかった。
実験のルール:予算1万円・2レース・遊びの範囲で
Fable 5には最初に「勝ち逃げ」ではなく「エンターテインメントとして遊ぶ」ことを明確に伝え、次のルールで運用した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 総予算 | 10,000円(この日だけ) |
| 対象レース数 | 2レース |
| 券種 | 馬連(流し・ボックス) |
| 1点あたりの基本額 | 500円(万馬券が当たったときに「うれしい額」になる最低ライン) |
| 目標 | 勝率よりも「当たれば大きい・外れても遊びの範囲」の設計 |
| パドック・調教映像 | リアルタイムでは見ない(見られない)前提 |
最後の一行が、今回の実験のいちばん重要な制約条件だ。競馬新聞や専門紙のプロ予想家は、発走直前のパドックで馬の気配や歩様を見て評価を上げ下げする。Fable 5にはその情報が一切与えられていない。インターネット上の血統データ、直近の戦績、当日の天候と馬場情報、トラックバイアス(その日の馬場が先行有利か差し有利かという傾向)だけで勝負させた。
レース1:福島6R・3歳未勝利(ダート1150m)で何が起きたか
最初の実験台は、13時01分発走の3歳未勝利戦。ダート1150m、天候は小雨、馬場は稍重。中央競馬のデータベースで確認できる当日の馬場傾向は「前有利」で、Fable 5はこれを踏まえて予想を組み立てた。
図1: レース1(福島6R)の買い目と実際の着順。軸に選んだ1番人気が6着に沈む一方、相手に指名した2頭がまさかのワンツーを決めた。
買い目
Fable 5が組んだのは「馬連流し」。軸には、直近4走で崩れずに走り続けていた⑪ツクバヴァンガード(単勝2.4倍・1番人気)を選び、相手には米国ダート血統(Mo Town×City Zip)で渋ったダートに合うと判断した⑥ミスタートントンをはじめ5頭を指名した。
| 券種 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 馬連流し | 軸:⑪ツクバヴァンガード → 相手:⑤⑥⑧⑫⑭ | 各500円(計2,500円) |
⑭ユニオンジャックは初出走で能力が未知数の「夢枠」として薄く仕込んだ1頭だ。
結果:1馬身以内に6頭がひしめく大接戦
| 着順 | 馬番 | 馬名 | 人気 | 単勝オッズ | 着差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1着 | ⑫ | ミラビリオン | 7人気 | 15.7倍 | - |
| 2着 | ⑥ | ミスタートントン | 2人気 | 4.6倍 | クビ |
| 3着 | ⑩ | ジェムシリカ | 9人気 | 36.0倍 | 1/2 |
| 4着 | ⑤ | ニンジャトットリ | 6人気 | 15.0倍 | 1/2 |
| 5着 | ⑦ | イイクニパッション | 5人気 | 9.7倍 | アタマ |
| 6着 | ⑪ | ツクバヴァンガード(軸) | 1人気 | 2.4倍 | 3/4 |
1着から6着までの着差は「クビ・1/2・1/2・アタマ・3/4」。合計しても1馬身ちょっとという、文字通りの大混戦だった。確定した馬連⑥-⑫の払戻は3,500円(12人気)。軸に指名した⑪は6着に敗れ、この馬券は不的中。2,500円がそのまま消えた。
何が当たり、何が外れたのか
ここが今回の実験でいちばん面白かったポイントだ。Fable 5が「相手」として指名した⑥と⑫が、そのまま1着・2着でゴールした。血統から拾った⑥ミスタートントンも、消去法で残した⑫ミラビリオンも、選んだ理由自体は間違っていなかったことになる。
外れた原因は明確だった。馬連の「流し」は、軸に指名した馬が2着以内に入らない限り、どれだけ相手の読みが当たっていても1円にもならない券種だからだ。もしこのとき軸を⑪ではなく⑥か⑫にしていれば、500円は3,500円×5倍=17,500円になっていた。予想の精度ではなく、馬券の組み立て方(券種設計)がボトルネックになった、というのが正直な結論である。
レース2:七夕賞(G3)で挑んだハンデ戦
同じ日の15時45分発走、メインレースの七夕賞(G3・ハンデ)。芝2000m、天候は曇、馬場は稍重。ハンデ戦は各馬の斤量が均される分、力関係が拮抗しやすく「荒れやすい」と言われる条件だ。
図2: 七夕賞(G3)の買い目と実際の着順。事前の本命候補は10着に沈み、ボックスは1着馬を含みながら相方を外して不的中に終わった。
事前のリサーチ段階でFable 5が本命候補に挙げていたのは、福島の芝コースで3戦3勝という実績を持つ⑯サヴォーナだった。中竹調教師のコメントでも状態の良さが伝えられており、3番人気に支持されていた。
買い目
最終的な買い目は、リサーチで浮上した複数の有力馬を馬連ボックスでまとめて拾い、さらに一頭を軸にした馬連ながしで高配当の「夢枠」を仕込む2段構えにした。
| 券種 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 馬連ボックス | ②⑩⑪⑬⑯の5頭 | 各500円・10通り(計5,000円) |
| 馬連ながし(夢枠) | 軸:⑫リカンカブール → 相手:⑪⑬⑯ | 各500円・3通り(計1,500円) |
| 合計 | 6,500円 |
この日1万円の予算のうち、レース1で2,500円、レース2で6,500円を使い切る設計にした。
結果:本命候補は10着に消えた
| 着順 | 馬番 | 馬名 | 人気 | 単勝オッズ |
|---|---|---|---|---|
| 1着 | ⑪ | アスクナイスショー | 2人気 | 5.0倍 |
| 2着 | ⑥ | マイネルモーント | 6人気 | 13.2倍 |
| 3着 | ⑨ | オニャンコポン | 15人気 | 73.5倍 |
| 4着 | ⑩ | センツブラッド | 7人気 | 14.8倍 |
| 5着 | ① | ボーンディスウェイ | 14人気 | 45.6倍 |
| 10着 | ⑯ | サヴォーナ(本命候補) | 3人気 | 6.4倍 |
福島3戦3勝という実績を引っさげた本命候補・⑯サヴォーナは、まさかの10着。血統やコース実績という「データに残る強み」だけでは、当日のコンディションや展開の綾までは読み切れないという、競馬の意地悪さを見せつけられた格好だ。
確定した馬連⑥-⑪の払戻は3,260円(13人気)。ボックス(②⑩⑪⑬⑯)には1着の⑪こそ入っていたものの、2着の⑥は買い目に含まれておらず不的中。ながしの軸に据えた⑫リカンカブールは13着に終わり、こちらも不的中。6,500円がまるごと消えた。
収支まとめ:1万円のうち9,000円が溶けた
2レースを終えての収支は、正直に言って完敗だった。
| レース | 投資額 | 払戻 | 収支 |
|---|---|---|---|
| レース1(福島6R) | 2,500円 | 0円 | -2,500円 |
| レース2(七夕賞) | 6,500円 | 0円 | -6,500円 |
| 合計 | 9,000円 | 0円 | -9,000円 |
図4: 1万円の内訳。実際に賭けた9,000円は払戻ゼロ、財布に残ったのは未使用の1,000円だけ。
1万円の予算のうち実際に賭けた9,000円は全て外れ、財布に残ったのは使わなかった1,000円だけ。数字だけ見ればきれいな「全敗」である。それでも、1馬身を争う大接戦を見届けたレース1も、本命が終盤で沈んでいく七夕賞も、画面の前で「⑫こーい!」と叫びながら見る時間そのものは、値段以上に楽しめたというのが率直な感想だ[1]。
Fable 5は競馬の何が得意で、何が苦手だったのか
2レースという少ないサンプルからでも、AIの得意・不得意ははっきり見えてきた。
図5: 情報収集・言語化では強みを見せた一方、パドックの現場情報と構造的な控除率には手が出せなかった。
得意だったこと
- 当日の天候・馬場状態・トラックバイアス(前有利/差し有利)を複数の情報源から素早く集約し、「なぜその馬を狙うのか」を血統・脚質・斤量まで含めて言語化できた
- 券種ごとの的中条件(「⑥と⑫が1着・2着なら的中」など)を、競馬初心者にも分かる言葉で毎回説明できた
- 外れた後の敗因分析が的確だった。レース1では「予想の中身(どの馬が強いか)は当たっていたが、券種の設計(軸の選び方)が間違っていた」という、初心者では気づきにくい構造的な問題を言語化できている
苦手だった、あるいはそもそも手が出せなかったこと
- パドックでの気配・歩様・発汗といった直前情報には一切アクセスできない。今回の七夕賞で本命候補にした⑯サヴォーナの10着は、まさにデータの外側で起きた敗因かもしれない
- 馬券の控除率(馬連で約22.5%)という構造的なハンデは、どれだけ賢いAIでも情報分析だけでは覆せない
- そして何より、たった2レースでは「Fable 5に競馬の才能があるか」を統計的に語ることはできない。100レース規模で回してようやく、平均回収率がプラスなのかマイナスなのかが見えてくるはずで、今回の結果はあくまで「1日遊んでみた記録」の域を出ない[2]
そもそも競馬じゃなかったら、もっと当てられたのか
ここは完全に想像の話になるが、AIの予測精度は「情報の完全性」と「市場の効率性」に強く左右される。将棋や囲碁のようにルールが完全情報で閉じたゲームなら、AIはとうに人間を超えている。逆に競馬は、生き物のコンディション・展開の綾・騎手判断という非言語的で観測しづらい変数が結果を左右するため、同じ「予測」でも難易度が段違いに高い。
同じ理屈は、実は為替や株式のようなマーケットにもある程度当てはまる。筆者は個人的に、AIの判断を組み込んだ為替の自動売買を小さな金額で半年ほど試している最中だ。ただし為替市場は競馬よりはるかに情報が多く効率的で、勝ち筋があるとしても簡単には見えてこない。もし半年後にちゃんとした根拠を持って収支を語れるようになったら、いつか記事にするかもしれない。もしその記事が出てこなかったら、「ああ、あっちも静かに小銭を溶かしたんだな」と生温かい目で見ていただければと思う。
将来はどうなるか:パドック映像とPlaywrightが変える(かもしれない)もの
今回いちばん悔しかったのは、七夕賞の本命候補⑯サヴォーナが「データの外側」で沈んだことだ。ここで一つ、エンジニアとして妄想せずにはいられない構想がある。
図3: 妄想レベルの将来構想。パドック映像の解析、締切直前のオッズ変動、自己学習ループを組み合わせるアイデア。
1つ目は、パドック映像をマルチモーダルAIにリアルタイム解析させるアイデアだ。歩様の硬さ、発汗の量、気配といった要素は、現状のFable 5には見えていない情報だが、映像解析技術が進めば理論上は数値化できるかもしれない。
2つ目は、締切直前のオッズの変動を「パドックを見た人たちの集合知」として特徴量に加えるアイデア。直前になって急にオッズが下がる馬は、会場で現物を見た人たちが買っているサインだと解釈できる。これは今のAIでも、締切ギリギリまでオッズを監視すれば取り込める情報だ。
3つ目は、もっと踏み込んだ構想で、ブラウザ自動化ツール(Playwright)を使えば、出馬表の取得から予想、投票、自己学習による反省ノートの更新までを理論上は自動化できる、というアーキテクチャの話だ。負けたレースの敗因を自動でノートに書き溜め、次回の予想プロンプトに反映させる「自己学習ループ」は、技術的には十分に組める。
ただし、これは完全に思考実験として書いている。JRAは馬券購入のための公式APIを提供しておらず、投票までを自動化する行為は利用規約や自己責任の観点から実際に構築・運用すべきではないと考えている[3]。あくまで「こういうアーキテクチャなら理論上は可能」という、エンジニアの妄想の域を出ない話として楽しんでほしい。
まとめ:また負けそうだけど、たまにはやると思う
結果は1万円中9,000円の損失。Fable 5をもってしても、競馬に確実に勝つ方法は存在しなかった。これは残念な結果であると同時に、どこかホッとする結果でもある。もしAIが競馬まで確実に予想できてしまったら、それはそれで夢のない話だ。「何でも予測できるわけではない」というのは、案外いいニュースなのかもしれない。
毎週1万円を溶かし続けるのはさすがに財布が痛いので、しばらくは頻繁にはやらないつもりだ。それでも、AIと一緒に血統を調べ、オッズを眺め、レース中に「⑫こーい!」と叫んだ時間は、負けた金額を差し引いても十分に面白い経験だった。また気が向いたら、Fable 5と一緒に次の万馬券を狙いに行きたいと思う。
参考文献
- 七夕賞(G3) 結果・払戻 - netkeiba
- 3歳未勝利 結果・払戻 - netkeiba
- 七夕賞(G3) 出馬表 - netkeiba
- JRA福島競馬場の天気 - tenki.jp
- トラックバイアス予想(福島・小倉・函館) - トラックバイアス&血統研究
参考文献・出典
- [1]本記事の賭け金はすべて実際にJRA公式IPATを通じて購入したものです。馬券の払戻率(控除率)は券種によって異なり、馬連・ワイドで約22.5%、三連単で約27.5%が主催者側の取り分となるため、長期的には投資額を下回りやすい構造になっています。 ↩
- [2]本記事とは別に、直近3ヶ月・279レース分のJRAデータを使い、人気順のみに基づく機械的な買い方をシミュレーションしたところ、回収率はおおむね58%〜97%の範囲に収まりました。これはFable 5による実際の判断を検証したものではなく、券種構造そのものの傾向を見るための簡易的な参考値です。 ↩
- [3]中央競馬(JRA)の馬券購入は、JRA公式サイトまたは公式IPATを通じた個人の意思決定に基づく操作を前提としています。投票行為の自動化は利用規約や関連法令に抵触する可能性があるため、本記事で触れたアーキテクチャ構想はあくまで技術的な思考実験であり、実装・運用を推奨するものではありません。 ↩

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