OpenAIのAgent Builder徹底解説 ~生成AI・AIエージェントの基礎から最新プラットフォームまで~

OpenAIが2025年10月に発表したAgent Builderについて詳しく解説。生成AIとAIエージェントの基礎から、ノーコードでのエージェント開発、他社製品との比較まで網羅的に紹介します。

公開日: 2025年10月18日
読了時間: 7
著者: ぽちょ研究所
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OpenAIのAgent Builder徹底解説 ~生成AI・AIエージェントの基礎から最新プラットフォームまで~

はじめに

近年、ChatGPTや画像生成AIの登場で生成AI(ジェネレーティブAI)という言葉が広く知られるようになりました。

生成AIとは、ディープラーニングなどの技術を駆使して、人間が作るような文章・画像・音楽・動画などのコンテンツを自動生成するAI技術のことです。大量のデータから学習したパターンをもとに、新しい創造的なコンテンツを生み出せる点が特徴で、ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)もこの生成AIの一種です。

一方で、近頃注目されているAIエージェントは、生成AIをさらに一歩進めた概念です。AIエージェントとは、ユーザーに代わって目標達成のために最適な手段を自律的に選択しタスクを実行するAIのことです。

例えば人間の介入なしに特定のゴール(問い合わせへの対応や業務処理の完了など)に向けて、必要な情報収集やアクションを自動で行ってくれます。単に質問に答えるチャットボットに留まらず、届いたメールから自動で会議日程を調整したり、業務システムのデータを分析してレポートを作成したりといった"能動的な"処理までこなす点がチャットボットとの大きな違いです。

つまりAIエージェントは、複数のAIモデルや外部ツールを組み合わせながら自律的に判断・行動してくれる次世代のAIシステムと言えるでしょう。


本記事で解説する内容

本記事では、以上の基礎を踏まえつつ、OpenAIが2025年10月に発表した新プラットフォーム「Agent Builder」について詳しく解説します。

  • AIエージェントをノーコードで構築できるこのツールの目的・機能・構造
  • 実際にどのような手順でエージェントを開発するのかをステップごとに説明
  • 非エンジニアでも業務に活用できるユースケース(Zapierのようなノーコード自動化的ワークフロー)
  • 競合となりうる他社のAIエージェント関連プロダクトとの比較
  • Agent Builderの特徴やメリット、ビジネス上の恩恵
  • 利用料金や現在の提供状況なども具体的にまとめます
  • 解説内容:


OpenAI Agent Builderとは何か?

Agent Builderは、OpenAIが新たに提供を開始した視覚的なAIエージェント開発ツールです。2025年10月のOpenAI DevDayで発表された「AgentKit」というツール群の一部であり、ドラッグ&ドロップ操作によって対話型のエージェントアプリケーション(エージェントのワークフロー)を構築できるのが最大の特徴です。

プログラミングの知識がなくても使えるノーコードツールであり、複雑な業務フローをGUI上で直感的に組み立てることができます。

従来の課題とAgent Builderの解決策

従来、企業がチャットボットや自動応答システムを作るには専門の開発や統合作業が必要でした。しかしAgent Builderでは、あらかじめ用意された「ノード(部品)」をつなぎ合わせるだけで、エージェントの対話ロジックやツール連携を設計できるようになっています。

インターフェースの特徴

Agent Builderは他のワークフロー自動化ツールであるn8nやZapierのような親しみやすいインターフェースを持ちつつ、背後では高度なAIエージェント機能を備えています。

  • エージェント(Agent)ノード - AIの頭脳部分
  • MCPノード - 外部ツールとの接続
  • ガードレール(Guardrail)ノード - 安全性の担保
  • If/Elseノード - 条件分岐
  • ループ処理ノード - 繰り返し処理
  • コネクタノード - 企業内外のデータソースへのアクセス
  • 利用可能なノードの種類:

ワークフロー設計の特徴

OpenAIの大規模モデル(GPT-4.5やGPT-5等)を背後で呼び出して推論させるエージェントノードだけでなく、条件分岐用のIf/Elseノードやループ処理ノード、さらには企業内外のデータソースへアクセスするコネクタノードも用意されています。

これにより、一連の対話や処理手順を一つの「エージェントワークフロー」として視覚的にデザインし、簡単にバージョン管理や共有ができるのです。

開発者向け機能

さらに開発者向けには、出来上がったフローをそのままTypeScriptやPythonのコードとしてエクスポートし、OpenAIのAgents SDKを使って細部をカスタマイズすることも可能です。

このようにAgent Builderは、ノーコード開発とコードによる拡張性の両面を備えたハイブリッドなプラットフォームとなっています。

Agent Builderの画面例

💡 参考: OpenAI Agent Builderの画面例

上記の図は「カスタマーサービス」エージェントのワークフローを示しており、以下のような流れになっています:

  1. Start(開始ノード) - 左側に配置
  2. Jailbreak guardrail - 不適切な入力を防ぐガードレール
  3. Classification agent - 分類エージェント
  4. If/elseノード - 条件分岐
  5. 複数のエージェントノード - ユーザーのリクエスト内容に応じて分岐
    • Return agent(返品処理)
    • Retention agent(解約手続き)
    • Information agent(情報提供)
  6. End(終了ノード) または Hallucination guardrail(誤情報出力を防ぐガードレール)
  7. フローの構成:

  • Evaluate(評価) - エージェントの性能評価
  • Code(コード表示) - 生成されたコードの確認
  • Preview(動作プレビュー) - 実際の動作確認
  • Publish(公開) - 本番環境へのデプロイ
  • 操作ボタン:

    開発者はこのビジュアルキャンバス上でエージェントのロジックを迅速に作成・テスト・デプロイできるようになっています。


Agent Builderの目的と機能

開発背景と目的

OpenAIがAgent Builderを開発した背景には、企業や開発者がより短期間で高度なAIエージェントを開発・展開できるようにするという目的があります。

従来、マルチステップのAIエージェントを作ろうとすると、チャットボットの対話管理ロジック、外部APIとの統合、プロンプトのチューニング、フロントエンドUIの作り込みなど、多岐にわたる開発工程が断片的なツールで散らばっており、完成までに長い時間と労力を要していました。

Agent Builder(およびAgentKit全体)はそうした課題を解決し、一つの統合環境でエージェントの設計から実装、評価、デプロイまでを効率良く行えるよう設計されています。

実際の導入事例

開発期間の劇的短縮 実際、ある企業ではAgent Builderを使ってゼロからバイヤー向けエージェントをわずか数時間で構築でき、従来は数ヶ月かかっていた社内調整や開発サイクルを劇的に短縮できたと報告されています。

日本企業での成功事例 日本企業のLY Corporationでも、エンジニアと現場の専門家がAgent Builder上で協業し、数時間で社内アシスタントエージェントを作り上げたといいます。

これらは、Agent Builderのビジュアルなワークフロー設計によりプロダクト担当者や法務部門ともリアルタイムに「見える化」された形で議論でき、調整コストが70%削減されたことが大きな要因だとされています。

つまりAgent BuilderのGUIは、技術者だけでなく様々な職種が同じキャンバスを見ながらエージェントのロジックを検討・改善できるコラボレーション基盤としても役立つのです。

豊富な機能とテンプレート

ノードとコネクタの充実 機能面では、前述のように豊富なノードとコネクタ(外部連携機能)が提供されている点が重要です。テンプレートも複数用意されており、カスタマーサポート、営業アシスタント、社内情報検索ボットなど典型的なユースケースであれば、テンプレートから出発して必要に応じて修正するだけで本格的なエージェントを立ち上げることができます。

外部システムとの連携

Connector Registry 外部システムとの連携については、Connector Registryと呼ばれる接続設定の管理機能を通じて行います。例えば、Microsoft SharePointやGoogleドライブ、Boxといったファイルストレージ、Microsoft Teamsなどのコラボレーションツール、ウェブサイトのデータ、企業内の独自データベース等、非常に多くの外部データソースをAgent Builderから利用可能です。

必要なコネクタを選んで認証情報を設定すれば、エージェント内のノードからそれら外部データにアクセスして検索・取得・更新などの操作を自動化できます。現時点ではSalesforceやSAPなど一部の主要業務システムにはまだ公式対応していませんが、今後対応が拡充していく見込みです。

高度なカスタマイズ機能 さらに高度なユーザー向けには、OpenAIが用意した標準MCPサーバー(メールやカレンダー等の一括連携サービス)のほかに独自の外部ツール連携サーバー(MCPサーバー)を追加することも可能です。

この仕組みにより、社内のレガシーシステムやカスタムツールであっても、MCPのプロトコルに対応する実装を用意すればAgent Builder上のエージェントに組み込むことができます。例えばComposio社の提供する「Rube MCP」を追加すれば、HubSpotやJira、YouTubeなど500以上のアプリケーションに一度に接続できるユニバーサル連携が実現します。

このようにAgent Builderは、社内外のデータとAIの橋渡しを行い、人間の知見や業務ロジックをエージェント化するための強力なプラットフォームとなっています。


開発プロセスとノーコード活用例

では、Agent Builderを用いて実際にAIエージェントを開発する流れを見てみましょう。基本的なステップは次のとおりです。

1. ワークスペースとプロジェクトの準備

OpenAIのプラットフォーム(platform.openai.com)のAgent Builderページにアクセスし、OpenAIアカウントでログインします。

新規プロジェクト(フロー)を作成する際、テンプレートから開始することもできますし、「Blank(空のフロー)」を選んでゼロから構築することも可能です。

初めて利用する際はAPI利用の組織認証や課金情報の登録が必要になる点に注意してください。

2. ノードの配置と接続

画面左側のパレットから必要なノードをドラッグし、キャンバス上に配置していきます。まずStartノード(開始点)を置き、次にAgentノードを繋げます。

このAgentノードがエージェントの「頭脳」に当たり、どのAIモデル(GPT-4.5やGPT-5等)を使うか、プロンプト(システムメッセージや役割指示)は何か、といった設定を行えます。

続いて、必要に応じツールノードを追加します。例えばユーザーからの質問に対し外部データを検索する場合は、検索専用のMCPノードをAgentノードに接続します。また社内ドキュメントを参照する場合はベクターストア連携のノード(Embeddingや検索ノード)を挿入し、社内データから関連情報を引っ張れるようにします。

このように、エージェントの主な思考ルートに沿って順次ノードを繋ぎ込み、一本の「対話フロー」を形作っていきます。

3. 条件分岐やループの設定

シナリオによっては、ユーザーの入力内容や途中で得られたデータに応じて処理を分岐させる必要があります。その際はIf/Elseノードを配置し、例えば「ユーザーの意図が予約キャンセルならパスAへ、それ以外ならパスBへ」といった分岐条件を設定します。

Agent Builderではノード間を矢印で繋いでフロー制御を表現できるため、分岐後の各経路にそれぞれ別のAgentノード(異なる役割のエージェント)を配置し、最後に再び結果を統合してEndノードへつなげる、といった複雑なロジックも可視化して構築できます。

またループ処理や繰り返し質問のようなパターンには、必要に応じて同じフロー内で自己呼び出しする工夫なども可能です。

4. ガードレールの適用

エージェントが誤った情報を返したり、不適切な応答をしないようにするため、安全対策のGuardrailノードを適所に組み込みます。

OpenAIが提供するオープンソースのガードレールライブラリ(対話内容のチェックやPIIマスキング等を行う仕組み)と連携し、たとえば応答文に機密情報が含まれていないか検査したり、ユーザーからの入力が明らかな不正指示(システムの悪用や脱獄プロンプト)でないかを検知するといったガードレールを追加できます。

これらはノードのプロパティ画面から簡単に設定でき、テンプレートにもあらかじめ「Jailbreak guardrail」「Hallucination guardrail」などが組み込まれています。

5. プレビュー実行と評価

フローの構築が一通り完了したら、画面上部のPreview(プレビュー)ボタンでエージェントを実際に試します。ユーザーからの入力を与えてみて、期待通りの回答や動作になっているか確認します。

OpenAIのプラットフォーム上ではEvalsと呼ばれる評価機能とも統合されており、テスト用のデータセットを用意してエージェントの応答品質やタスク成功率を自動評価することも可能です。

例えば事前に用意したQ&Aペアに対しエージェントが正確に答えられるか、一連の対話フローがビジネス要件を満たすかを検証できます。評価結果(正答率や誤答の傾向など)はダッシュボードで確認でき、問題があればノード設定やプロンプトを修正して再度プレビューを行います。

6. 本番展開と活用

エージェントの動作が確認できたら、Publish(公開)ボタンでフローを本番環境にデプロイします。公開後はOpenAIのAPI経由でそのエージェントを呼び出すことができ、社内システムと統合したり、Webhookでトリガーをかけたりできます(2025年10月時点では今後ChatGPTにおけるWorkflows APIやエージェントのデプロイ機能も提供予定とのこと)。

ChatKitによるUI統合 また、AgentKitに含まれるChatKitというツールを使えば、構築したエージェント用のチャットUIコンポーネントを自社のアプリやウェブサイトに簡単に埋め込むことも可能です。

例えば自社サイトに訪れたユーザー向けにカスタマーサポートのAIチャットボットとしてAgent Builderで作ったエージェントを配置する、といった使い方ができます。ChatKitを用いればストリーミング応答(トークン逐次表示)やスレッド管理、ユーザーがAIの「思考過程」を覗けるインターフェースなども容易に実装でき、まさにChatGPT類似のエクスペリエンスを自社サービス内に組み込めます。

ノーコードで作成したエージェントをこのようにエンドユーザーが直接対話できる形で提供できるため、非エンジニアの現場スタッフであっても、自分たちの業務課題に合わせたAIエージェントを作り、業務効率化に活用するといったことが現実味を帯びてきます。

非エンジニアでも扱えるユースケース

社内問い合わせ対応の自動化 実際、非エンジニアでも扱えるユースケースの例としては、例えば社内の問い合わせ対応の自動化があります。IT部門に寄せられる問い合わせをAIエージェントが一次対応し、解決策をナレッジベースから探して提案したり、解決できない場合はチケットシステムにエスカレーションするといったフローを、Agent Builderでノーコード構築できます。

営業現場での活用 また営業現場では、営業担当者が使う提案資料作成支援エージェントを作成し、製品カタログ(PDF)や過去の提案データを読み込ませておけば、質問に答える形で最適な製品情報を引き出したり、提案書のドラフトを自動生成してくれる、という活用も考えられます。

これらはまさにZapierなどの業務自動化ツールで従来人手を介していた部分を、対話型AIと機械的な自動処理を組み合わせて高度に自動化するイメージです。Agent Builderは専門エンジニアでなくても使える設計でありながら、その裏側で強力なAIモデルと各種システムが連携して動いてくれるため、ビジネス現場での「AIアシスタント」導入を大きく後押しするものと期待されています。


他の主要AIエージェント関連プロダクトとの比較

ここでは、OpenAI Agent Builderと並んで名前が挙がることの多い主要なAIエージェント関連プロダクトと比較しながら、その特徴と位置付けを整理します。取り上げるのはGoogleのProject Astra、AnthropicのClaude、Cognition LabsのDevinの3つです。

GoogleのProject Astra(プロジェクト・アストラ)

概要と特徴 Project Astraは、Google(DeepMind)が開発中の汎用AIアシスタントの研究プロトタイプです。2023年のGoogle I/Oで初披露され、2024~2025年にかけて機能強化が進められている次世代アシスタント構想の中核に位置づけられています。

Astra最大の特徴は、マルチモーダル(テキスト・音声・視覚)でユーザーと対話し、状況を理解して主体的に行動できる点です。例えばユーザーのスマートフォン画面やスマートグラスに映る情報をリアルタイムに解析し、必要に応じて画面上の要素をハイライト表示して案内してくれます。

Googleサービスとの連携 またGmailのメール内容やカレンダー、マップなどGoogleの各種サービスと連携し、ユーザーの指示無しに「今この場で必要な提案や処理」を開始できるプロアクティブ(先回り)な応答も目指されています。

たとえば日常会話の中から予定を察知して自動でカレンダーに予定を追加したり、旅行プランの相談中にGoogleマップや検索を駆使して最適な行程を提案したり、といった動作です。

さらにユーザーごとの長期記憶を持ち、過去の対話や行動から好みや習慣を学習してパーソナライズされたサポートを行うことも計画されています。

Agent Builderとの比較 Agent Builderとの比較で言えば、Project Astraはエンドユーザー向けの「汎用AI秘書」の実現を目指したプロダクトであり、開発者が自社用にカスタムエージェントを構築するためのツールという位置付けではありません。

現段階では一部のTrusted Tester(信頼できるテスター)に限定公開されている実験的システムで、Google自身が提供する次世代AIアシスタントの先行研究という色彩が強いです。

したがって、企業ごとに独自の業務エージェントを作ることを主目的とするOpenAI Agent Builderとは直接競合するものではなく、むしろ「AIエージェント時代」のコンシューマー向け最先端例として位置付けられます

一方で、Astraで培われた音声や視覚情報の高度な理解、あるいは複数タスクの同時進行(マルチタスクエージェント)といった技術は、将来的にGoogleの提供する開発者向けプラットフォーム(Gemini AI StudioやLive APIなど)経由でサードパーティにも開放されていく可能性があります。

総じてAgent Builderが企業内の特定業務に特化したエージェント開発にフォーカスしているのに対し、Project Astraは幅広い日常ニーズに応えるパーソナルエージェント志向であり、両者は用途と対象ユーザーが大きく異なると言えるでしょう。

AnthropicのClaude(クロード)

概要と特徴 Claudeは、OpenAIのChatGPTに対抗する汎用対話型AI(LLM)としてAnthropic社が開発したモデル群・サービス群の名称です。2023年にClaude 2が公開され、その後もClaude 2.1やClaude 4相当の社内モデルが開発されるなど進化が続いています。

長いコンテキストウィンドウ Claudeの特徴としてまず挙げられるのが非常に長いコンテキストウィンドウです。Claude 2では最大100kトークン(約75,000語)もの長文入力を一度に処理できると発表され大きな話題となりました。

さらに2025年現在、企業向けモデルのClaude Opus 4.1では200kトークン(約150,000語)を標準で保持し、一部プレビュー機能では最大100万トークンものコンテキスト長も実現しています。

これにより、数百ページに及ぶドキュメントを丸ごと読み込んで要約・分析したり、大規模なコードベース全体を一度に理解して改良提案を行ったりといった、高度な長文解析が可能です。

安全性と信頼性 また、AnthropicはAIの安全性・信頼性を重視しており、Claudeには「Constitutional AI」と呼ばれる独自手法が取り入れられています。これはAIに一連の倫理的な原則(憲法)を学習させ、その原則に照らして自己調整しながら応答を生成させるアプローチで、これによりジョークブレイク(越権行為)や有害な出力への耐性が高められているとされています。

実際、Claudeはユーザーの指示に対しても比較的慎重かつ丁寧に応答する傾向があり、企業利用において「有害でない、誠実な回答」を得やすいという評価があります。

Agent Builderとの比較 ではClaudeとAgent Builderはどう違うのでしょうか。そもそもClaudeはLLMそのもの(あるいはそれを使った対話サービス)であり、Agent Builderのような開発ツールではありません。

Claudeを企業で活用するには、AnthropicのAPIを用いて自社アプリに統合したり、AWSのBedrockやSlackのClaudeアプリ等を通じて利用する形になります。したがって、Agent Builderのようにマルチステップのワークフローを視覚的に作り込む機能は標準では提供されていません(必要ならLangChainなど他のフレームワークと組み合わせてエージェントシステムを構築することになります)。

一方で、Claude自体は前述のとおり長大なコンテキスト保持や高度な推論能力に優れており、例えばAgent Builderで同様のタスクを実現しようとすると複数ノードに分けてフロー制御が必要になるようなケースでも、Claude単体に大量の情報を与えて一度で処理させることができる可能性があります。

またAnthropicはClaudeを「マルチエージェントシステム」に組み込む用途も想定しており、Claude Sonnet 4.5は自律的に複雑なマルチステップワークフローを計画・実行するのに長けたモデルと位置付けられています。

このようにClaudeはプラットフォームというより汎用AIエージェントの「頭脳」として有力な選択肢であり、Agent Builderでエージェントを組む際にも背後のAIモデルとしてClaudeを採用するようなケース(将来的なモデル対応拡充次第ですが)が考えられるでしょう。

現状Agent BuilderはOpenAIの自社モデルとデータソースを前提としていますが、長期的には他社モデルをエージェントの一部に組み込む可能性も示唆されており、そうなればAgent Builder上でAnthropic Claudeの強みを活かすといった活用もあり得るかもしれません。

Cognition LabsのDevin(デビン)

概要と特徴 Devinは、Cognition Labs社が開発するソフトウェアエンジニア向けAIエージェントです。いわば「AIが実装するエンジニア」のような存在で、コードを書いたりデバッグしたりといった開発タスクを自律的に行うことを目標としています。

2024年3月に「世界初のAIソフトウェアエンジニア」としてDevinが紹介され、以降エンジニアリング業務に特化したAIエージェントとして注目を集めています。

長期的な推論・計画能力 Devinの特長は、長期的な推論・計画能力に優れ、数千の判断を要するような複雑な開発プロジェクトを計画立案し、実行までこなせる点です。

具体的には、シェル(ターミナル)やコードエディタ、ウェブブラウザといった開発に必要なツール一式をサンドボックス環境内に搭載しており、まさに人間の開発者と同様の手順でタスクを進めます。

例えば未経験のフレームワークでもドキュメントを読んで習得し、ユーザーの要件に沿ったアプリケーションを一から実装・デプロイすることができます。既存のコードベースにバグがあれば、自ら環境をセットアップして問題を再現し、修正してテストまで行うことも可能です。

実力の証明 その実力はオープンソースの難問バグ修正ベンチマークであるSWE-benchにおいて、Devinがエンドツーエンドで約14%の問題を解決し、従来の最先端モデル(わずか2%弱)を大きく上回ったという成果にも表れています。

Agent Builderとの比較 Agent Builderとの比較では、Devinは特定領域に特化したエージェントの完成形であり、ユーザー企業側が自由にワークフローを設計するタイプのツールではありません。言わば「製品」としてのAIエージェントであり、現時点では早期アクセス版が提供されている段階です。

利用企業はDevinに解決してほしい開発課題を与え、あとはDevinが自主的に開発を進めていくのをモニタリング・指示修正する、といった使い方になります。

Agent Builderのように、他分野(例えばカスタマーサポートやマーケティング)のエージェントを作ることはDevinではできませんが、その代わりソフトウェア開発という狭い領域においては、Agent Builderで一から作るよりもはるかに高度で実用的なアウトプットを期待できます。

特に開発者向けツールの統合(コードエディタやブラウザ操作まで含む)や長時間にわたる自律動作(何時間もかけてコーディングし続ける等)はDevinの大きな強みであり、Agent Builder上で似たようなことをしようとしても現時点では困難です。

したがって、Agent Builderは汎用的な業務エージェントを迅速に構築するための土台であり、Devinは特化型エージェントの完成版という違いがあります。両者は競合関係というより用途が異なる製品ですが、「将来的にAgent Builder上にDevinのような高度専門エージェントのテンプレートが提供される」という可能性は十分考えられます。

そうなればユーザーは、Agent BuilderからDevin型のコーディングエージェントを呼び出して自社の開発プロセスに組み込む、といった融合的な活用もできるでしょう。


Agent Builderのメリット・ビジネス上の恩恵

以上を踏まえ、改めてAgent Builderが企業にもたらす利点を整理します。

開発生産性の向上

最大のメリットはやはりエージェント開発の生産性向上です。ビジュアルフロー設計によって開発サイクルが短縮されるだけでなく、非エンジニアを含むチーム全員でプロトタイプを検討できるため、要件のすり合わせや試行錯誤が格段にスピードアップします。

実際の導入事例

Klarna社の成功事例 実例として、決済サービス企業のKlarnaではOpenAIのエージェント技術を用いてカスタマーサポートのAIエージェントを構築し、問い合わせの約3分の2を自動対応できるようになったと報告されています。これにより人間のサポート要員の負担が大幅に減り、顧客対応のスピードも向上したといいます。

Clay社の成長事例 またスタートアップのClay社では、営業担当エージェントを導入した結果顧客獲得の成長率が10倍に跳ね上がったとのことで、適切にエージェントを活用すればビジネスのKPIに直結する成果が得られることが示唆されています。

OpenAIエコシステムとの親和性

さらにAgent BuilderはOpenAIの高度なAIモデル群や評価基盤との親和性が高い点も見逃せません。ChatGPTで培われた対話最適化技術や、OpenAI独自のEval評価によるモデル改善サイクルなどが統合されているため、エージェントの精度向上や安全性確保において恩恵があります。

例えば社内文書を使ったQAエージェントを作る場合でも、Eval機能でどの質問に答えられなかったか自動収集し、それをもとにプロンプトの改善提案をAI自身に生成させるといった高度な最適化も可能になっています。

このように継続的なエージェント性能の測定・改善ループを回せる仕組みは、ビジネスでAIを本番運用する上で非常に価値が高いです。


利用料金と提供状況

最後に、Agent Builderの利用コストや現在の提供状況についてまとめます。

料金体系

OpenAI Agent Builder自体の利用料金は無料で、別途ソフトウェア購入費などは発生しません。ただしエージェント内部で呼び出すAIモデルやAPIの使用料が従量課金となるため、基本的には「OpenAI APIの標準モデル利用料金」に包含される形と考えてください。

たとえばGPT-4やGPT-5を使用して大量の問い合わせに応答すれば、その分のトークン消費料がかかりますが、Agent Builderという機能自体の追加料金は現状ありません。

したがって、小規模に試す分には月数千円程度のAPI利用料で済みますし、大規模に本番運用する場合でも従来のAPI利用料ベースでコスト試算が可能です。

提供状況

提供状況に関しては、2025年10月現在Agent Builderはベータ版として公開されています。OpenAIの開発者プラットフォーム上で利用できますが、一部の機能(特にConnector Registryによる企業内データ統合機能など)は現時点でChatGPTエンタープライズ契約者や教育機関ユーザーなど限定的なベータ提供となっています。

ただしAgent BuilderそのものはAPI利用者であれば基本的にベータ参加可能で、OpenAIアカウントの組織オーナーが有効化することで使えるようになります。

なお、利用にあたってはOpenAIのAPI利用規約やガイドラインに従う必要があり、特に業務で機密データを扱う場合は適切なアクセス制御やデータ保護の設定を行うことが求められます。

また前述のとおり現時点では対応コネクタに限りがあったり、UI上でエラーが発生する場合があるなど、発展途上の部分も見受けられます。OpenAI自身「We can't wait to see what you build.(皆さんが何を作るか待ちきれない)」とコメントしており、ユーザーのフィードバックを受けながら機能改善が進められていくでしょう。


まとめ

以上、OpenAI Agent Builderの概要と活用方法、そして他社プロダクトとの比較や実用上のポイントについて詳しく解説しました。生成AIとAIエージェントの基礎から始まり、最新のプラットフォーム動向まで俯瞰することで、本記事が読者の皆様にとって新しいAI活用のヒントになれば幸いです。

Agent Builderは、技術職から非エンジニアまで幅広い層がAIエージェント開発に参加できる未来への第一歩と言えるでしょう。この機会にぜひ一度、そのビジュアル開発体験を試してみてはいかがでしょうか。